BLOG

就労ビザ全般】駐在員の帰任後の家族の米国残留~子どもの学校問題

December 26, 2023 (Tuesday)

はじめに

米国に拠点を持つ多くの日系企業は、4月の年度初めに向けてビザ関連手続きを含む人事異動の準備を着々と進めています。そのような中、人事担当者、及び駐在員の頭を悩ませるのが、帰任の辞令が出た駐在員の子どもの就学問題です。この時期、相談の多い悩みですので、読者の皆さまのご参考になればと思います。


米国の学校年度(Academic Year)は一般的に、8~9月に始まり翌年の5~6月に終わります。このため、4月の人事異動に向けて3月末に帰任を言い渡された駐在員の子どもは、学年を終了する2~3か月前の段階で帰国せざるを得なくなります。小・中学生であれば義務教育年齢であるため公立小・中学校に転入できるはずですし、教育上の影響は比較的小さいのかもしれません。ただし、高校生の場合はそう簡単にはいかず、一般的には編入試験が必要となります。さらに、場合によっては編入学する学年にずれが生じるなど大学進学への影響もあるため、とても悩ましい問題です。特に現地の高校の最終学年である12年生の場合、あと数か月で卒業ということもあり、卒業までどうにか家族だけでも米国に残せないかという相談が多く寄せられます。


しかし残念ながら、米国の移民法上、駐在員が帰任した後に帯同家族のみ在留するのは容易ではありません。まず、帯同家族の滞在資格は駐在員の滞在資格に紐づくため、駐在員が帰任してしまうと家族も滞在資格を失うことになります。そのため駐在員の帰任後、家族のみ米国で滞在を続けるには、まず家族の滞在資格のカテゴリーを変更する手続き(Change of Status)が必要となります。ビザカテゴリーによっては、公立学校に通うことが認められない場合があるため、その点も考慮しビザカテゴリーを検討する必要があります。では、例えば子どもが高校生の場合はどんなオプションがあるのでしょうか。いくつか事例を見てみましょう。


・子どもが私立高校に編入しF-1留学生として在留:全寮制のボーディングスクール等、私立の高校に編入し、子どものみF-1留学生として在留する方法です。編入の難しさ(試験の難易度、願書の受付期間に基づく時間的制約、入学枠の制限等)や高額な学費を考えると実務や経済面での家族への負担が大きく、特に卒業間近のタイミングではあまり現実的ではありません。F-1留学生に親が同伴するオプションはないため、親が独自に別のステータスを取得しない限り、子どもの学生寮やホームステイ先の手配も必要です。

 

・子どもがJ-1交換留学生として在留:公立高校でも1年の交換留学生を受け入れているところも多く、就学中の高校でこのような制度があれば、子どもがJ-1交換留学生として在留することが可能です。上記オプションと同様に、J-1交換留学生に親が同伴するオプションはないため、親が独自に別のステータスを取得するか、ホストファミリーを探す必要があります。

 

・親が大学や語学学校に通い、親はF-1留学生、子どもはF-2帯同家族として在留:この選択肢のメリットは、親がF-1留学生として在留し当該学校区に世帯を維持すれば、子どもは引き続き公立校に通うことができる点にあります。しかし、親はフルタイムで就学する必要があり、就学が米国滞在の主目的ではないと疑われると、滞在資格の変更手続きを却下される場合もあります。

 

このように、移民法上、家族のみ滞在を継続するオプションがないわけではありませんが、申請手続きの手間、コスト、却下のリスク等が伴います。また、申請の目的が当該ビザの目的と一致することが一つの条件ですので、特に最後のオプションに関しては当該ビザの目的とは別の滞在目的であると疑われると却下の要因となります。子どもの教育事情に基づく残留の意思は、駐在員個人の都合によるもので自己責任ともいえますが、海外赴任の辞令を出す側として会社が事前に対応を検討しておくことが望ましいといえます。

 

会社としての対応はさまざまで、(1)社内規定がなく、駐在員が自己責任で家族の滞在資格を確保する手続きを行うケース、(2)社内規定はないが、駐在員の要請に応じて会社が協力して家族の滞在資格を維持するケース、(3)社内で在留制度が導入されており、会社が主導または駐在員に協力して家族の滞在資格を維持するケース等があります。

 

会社側ができる協力としては、残留家族の滞在資格変更手続きをサポートする(会社として、会社の移民法担当弁護士へ手続きを依頼する等)、会社としての需要があれば帰任辞令が出た後も米国法人に籍(兼任ポジション)を残し駐在員の滞在資格を維持する、またシンプルに赴任期間を駐在員のニーズに合わせてフレキシブルにすることなどが挙げられます。

 

2つ目の例は、既存の米国のポジションと帰任後の日本のポジションを一時的に兼任させて、駐在員に米国での籍を残すという方法です。既存の米国のポジションと帰任後の日本のポジションを一時的に兼任しないといけない場合は、駐在員の米国企業の社員としての立場も継続するといえますので、その家族も滞在可能であるという解釈もできます。もちろん肩書だけの兼任ではなく、実際に両社における責務を遂行するために日米を行き来し、米国での給与や手当の実態があるような場合です。これは家族のために形式的に行うのではなく、兼任が会社にとって必要であることが前提になります。

 

ただし駐在員の兼務及び日米往来の負担、会社の運営や業務への影響を考えると、長期的な解決策とはなりません。会社として兼任の需要があることが前提であるため、複数名の帰任者に対してこのような対応を行うことは現実的ではないでしょう。やはり現地の制度や状況(学校年度、及び移民法)を鑑みた上で、根本的な解決法を模索するのが、会社にとっても駐在員にとっても最適なのではないかと思います。

 

既に正式に帯同家族残留制度を導入している企業もありますが、当該国のビザに関するルールにそぐわないと、実質的には前述(1)と同じような形になり、効果が発揮されないことも少なくありません。海外赴任希望者が減少傾向にある中、既にこのような制度を導入している企業も、これから議論する企業も、当該国や地域により異なる学校制度や移民法制度を考慮した上での海外勤務規定の見直しをお勧めします。具体的には、帰任のタイミングにおけるフレキシビリティです。


最後に 

米国だけではなく、全世界の拠点を対象とする異動や業務の観点から容易ではないはずですが、前述した通り米国移民法上では簡単な解決法がなく、滞在資格を変更するには大きな負担が伴います。従って帰任のタイミングを当該国の学校年度で区切る、あるいは子女の学年終了・卒業まで延長を認める、といったフレキシブルな対応が理想的です。もしくは認めないのであっても、方針を明確にし、事前に現地の学校制度・移民制度に関する十分な情報を赴任者へ開示するシステムを取り入れておけば、家族としても正確な情報に基づいた意思決定と教育計画ができますし、会社にとっても赴任者にとっても帰任時の悩みやストレスが少しでも解消できるのではないでしょうか。このように駐在員とその家族が安心して赴任生活を送れるような深慮深いアプローチが、従業員満足度向上、海外赴任に対する前向きな気持ちにもつながるのではないかと思います。