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【ESTA】出張者向け:ESTAの正しい理解と入国拒否を避けるため知っておくべきこと

December 26, 2023 (Tuesday)

はじめに

昨今、ESTA(電子渡航認証システム)での米国への入国拒否が、日本のメディアでも大きく取り上げられ話題になっていますが、弊所で緊急的な相談を受けるケースの多くが、ESTAを利用した出張者の入国拒否に関するものです。その中でも最も一般的な例は、米国での「就労」を疑われ、「滞在目的に適したビザを所持していない」、つまり就労ビザなしの入国は認められないという判断で入国拒否を受けるパターンです。ESTAで許可されている渡航目的・活動を正しく理解し、入国に備えることは、別室での追加審査を避けるための重要な要素であり、仮に追加審査を受けることになったとしても、適切な対応を取ることで最終的に入国が許可される可能性が高まります。ESTAで問題なく入国ができるよう、この機会にESTAの正しい取り扱いを社内で徹底し、理解を一層深めることをお勧めします。

 

入国審査

ESTAは米国への入国を保証するものではなく、最終的な入国許可は到着後の入国審査を行う審査官の判断に委ねられます。まずパスポートとESTAの確認が実施され、滞在目的、滞在期間、滞在先等に関する簡単な質問があります。そこで問題がなければ入国することができ、最長90日(パスポートの残存有効期間が90日未満の場合はパスポートの期限まで)の滞在許可が付与されます。

 

しかし、ケースバイケースで入国審査カウンターでのやり取りを基に、別室で追加審査(Secondary Inspection)が行われることがあります。追加審査においては、荷物の検査を含む更に厳しい取り調べを受けることになりますが、万が一入国を拒否されると、その調書、及び自主出国の同意書に署名をさせられ、次のフライトで帰国しなければなりません。次のフライトまでは、空港で拘束されてしまいます。加えて、その結果、将来ESTAを利用できなくなり、米国へ入国する際には観光や出張であっても事前のビザ申請が必要になります。

 

ESTAで認められる渡航目的・活動

では、ESTAで認められる渡航目的・活動はどのようなものでしょうか。それは出張(Business Visit)であり、移民法上では「(米国法人の)一般的な雇用による就労ではなく、限られた商業的交流」と定義されています。この基準を満たしているか確認するために、出張時に検討すべき3つの重要な質問があります。

 

1.米国への渡航目的・活動が「就労」にあたらないか

米国の従業員が通常行っている日常業務を行う、または活動から得られる利益が米国の法人に帰属する場合、それは米国の法人の従業員が行うべき作業と見なされ、就労と判断される可能性があります。

 

2.米国での活動が、「2国間の貿易や商業活動」に直接関連し、それに不可欠、または付随するものか

この活動が国際的なビジネスの一環であり、かつ必要不可欠であるか、あるいはそのようなビジネス活動をサポートするものである必要があります。

 

3.米国での「滞在期間・渡米の頻度」が上記2つの渡航目的に矛盾していないか

滞在が一時的で単発的なものか、それとも継続的なものかを検討する必要があります。例えば、会議に参加するために3カ月間米国に滞在することは通常では考えられないため、そうした場合は疑問を持たれやすくなります。

 

上記基準を適用した事例

(例1)現地法人での日本の社員による知識共有

日本の社員が、米国子会社が販売する商品に関する知識を共有するとします。

・出張者が、米国内で開発・生産された商品に関するトレーニングを実施する場合、それは通常、米国法人の社員が行う作業であり、米国法人に利益をもたらす作業であるため、単独で見れば就労と見なされる可能性があります。

・一方で、日本で開発・製造された商品について知識を共有する場合、それは日本の親会社の責任範囲の業務であり、国際貿易や商業活動に不随するものと解釈できるため、ESTAの対象内と解釈できます。

 

この事例は法的要件を適切に理解し、渡航目的を明確に表現することの重要性を示しています。「米国法人の従業員のトレーニングを実施する」と「米国の担当者と会議を行う」では印象が全く異なります。審査官は「Work」や「Train」等、就労を示唆するキーワードに敏感なので注意が必要です。

 

(例2)米国子会社での日本の技術者による品質管理

日本の技術者が米国で販売される商品の品質管理を行う場合、その活動の目的と詳細が重要です。

・日常的な品質管理は、本来は現地法人にあるべき機能であり、現地の社員が行うべき国内の作業につき、このような作業が日本の技術者によって行われる場合は「就労」と見なされる可能性があります。

・一方で、日本で開発・製造した商品に不具合が生じた場合は、その問題を調査し、結果と解決策を日本の会社と現地の顧客に報告するために日本の技術者が米国子会社を訪問することは、日本の会社の責任と業務の一環として認められるでしょう。更に、日常的な品質管理と違い、2国間の商業活動に伴う活動とも言えます。米国子会社の従業員が日常的に行う作業とは違い、不具合による単発的な活動であるという点も重要です。

 

この例は、類似の作業であっても、具体的な事実関係を理解することの重要性を示しています。国際貿易に直接関わる業務、または親会社の責任範囲の単発的な業務においては、親会社の社員が調査に駆けつけることは親会社の責任範囲・業務であるため、出張と見なされやすいといえます。一方で、人手不足のため日本から応援に来てもらうことは、一般的な雇用による就労と見なされます。渡航者はこの違いを理解した上で、入国審査において適切な回答ができるよう備えておきましょう。

 

(例3)米国子会社での日本の経理担当者による経理業務

日本の経理担当者が米国子会社を訪れ、財務データを収集し分析するとします。

・このデータが日本の親会社の財務報告や申告に必要な場合、2国間の商用活動に付随するといえます。これは米国子会社の従業員が通常行う作業ではないため、出張として認められる可能性があります。

・一方で、もし作業が米国の会社のためのもので、例えば現地の会計士の休暇中の代理として米国内の財務申告を行う場合、これは本来現地社員の業務であり、国内の手続きに該当するため、出張とは認められない可能性が高いといえます。

 

この事例は、(例2)と同様、出張者がどんな立場で訪米するのか、あくまで親会社の社員として親会社の利益のために動くのか、もしくは現地の応援(欠員の補充)目的、すなわち就労目的なのかを明確にすることの重要性を示しています。

 

注意事項と対策

筆者もクライアントとのコンサルテーションの際、強調していますが、社員の皆さんは俳優ではありません。従って、いくら事前に準備をしても、不自然な言動はすぐ見抜かれてしまいます。入国審査官は、意図的に威圧感を出し誘導尋問を行います。そんな緊張の中で、ストーリーの一貫性を保てなくなることは少なくありません。従って、全てを開示しても問題がない状態にしておくことが重要です。

 

入国審査において自信を持って適切に対応するためには、以下のような事前準備が重要です。実際、多くの場合は簡素な入国審査で済みますが、認められた渡航目的と法的根拠をしっかと理解しておくと、堂々と審査に臨むことが可能になります。その結果、厳しい尋問を回避する効果もあります。

 

1.事実関係の整理:渡航目的と米国での活動を明確にしましょう。

出張者を送る米国外の会社、米国側の受け入れ先、出張者自身、及びその他の関係者全員の間でコミュニケーションを取り、渡航目的と米国滞在中の活動について共通の認識を持つことが大切です。関係者間で意思疎通がうまくいっておらず、例えば申請者自身が米国滞在中の活動について詳しく説明されていないことが入国審査中に発覚することがしばしばあります。そのような状態では当然、入国審査の受け答えが満足にできないため入国拒否のリスクが高まります。

 

2.法的根拠の確認:前述の基準に基づき、ESTAでの出張が可能か、それとも就労ビザが必要かを判断し、出張であれば、法的根拠を明確にしましょう。短期の渡米であっても、米国滞在中の活動が米国法人における「就労」に値するものであれば、駐在員のように就労ビザを取得できる場合があります。

 

3.関係者への周知と注意喚起:関係者への周知と準備を行いましょう。

a.出張者への説明:出張者には渡航目的、そして法的条件をどう満たすかをしっかりと伝えましょう。正しくルールを理解していれば、自信を持って入国審査に臨めるため、追加審査の対象になる可能性をあらかじめ低く抑えることができます。

 

b.入国レターの準備:トラブル発生時に備えて、事実関係や法的根拠を整理した入国レターを携帯することをお勧めします。このレターは最初から提出するためではなく、尋問が厳しくなった際に補足資料として用いるものですが、事実関係や法的根拠の事前整理・周知の意味でも役立ちます。筆者もクライアントから「“お守り”として携帯し、入国前まで何度も目を通したお陰で問題なく入国審査に臨めた」という言葉をいただくことがあります。

 

c.米国受け入れ先との連帯:訪問先となる米国法人とも共通の認識を持つことが重要です。米国税関・国境取締局(U.S. Customs and Border Protection)から出張者に関する事実確認の電話が入ることがあります。不十分な電話応対が入国拒否のリスクにつながることもあるため、電話がかかってきた場合の手順(誰が応対するのか、不在時の対応方法や緊急連絡先等)を事前に決めて、共通認識を持つことが重要です。実際にあった事例で、当局からの電話に対し米国側の担当者が詳しい状況を理解しないまま、「出張者は私のサポートに来ます。毎日出社してデスクで仕事をします」と回答してしまい、その結果として最終的に入国拒否につながってしまったケースがありました。

 

ESTAでの「観光」に関する注意

もう1点ご留意いただきたいのは、渡航目的を「観光」と申告すると入国審査が容易になると広く誤解されている点です。出張者が観光を装い、入国審査で実際は出張であることが判明した場合、虚偽申告によって入国を拒否されることになります。入国審査官は日々何百人もの渡航者を審査し、特別な訓練により虚偽を見抜くスキルを身につけています。これに加え、過去のパターンや状況証拠から虚偽が容易に明らかになることもあります。

 

例えば、2カ月後の帰国便が予約されていれば、「あなたの会社は2カ月間の休暇を許可しているのですか?」といった質問がなされ、これが商用であることを認めるまでの質問の流れにつながり、結果として入国が拒否されることがあります。また、荷物の中から商用の道具や出張関連のメールが発見され、虚偽申告が判明する事例もあります。虚偽申告を理由とした入国拒否は、前述の渡航目的が就労と見なされる場合と異なり、更に深刻な影響があります。重要な違いは、「就労」と「出張」の差は解釈によって異なり、明確な線引きが難しいという点です。自己の判断が「出張」であっても、審査官が同意しない場合がありますが、入国拒否後のビザ申請において説明の余地があります。しかしながら、虚偽申告の記録は将来のビザ申請に大きな影響を与え兼ねないため、虚偽申告は絶対に避けるべきです。

 

最後に

運良く毎度何も問題なく入国できているという方も多いですが、毎回そううまくいくとは限らず、入国拒否となった場合に被るダメージは甚大です。米国への入国が認められない場合、即時帰国を余儀なくされるだけでなく、ESTAの利用が不可能となり将来的なビザ申請への影響も懸念されます。更に、会社が組織的にESTAを濫用していると判断された場合、会社自体も罰則のリスクを負うことになります。入国拒否による影響の深刻度を考えると、渡航目的と計画された活動を明確にし、ESTAでの渡米が適切かどうか判断することの重要性が理解できるかと思います。

 

また、現地法人の責任者も、単純に現地での欠員を埋めるためにESTAで応援に来てもらうのは許されないということ、そしてESTAで認められる活動は、出張者の日本の会社の業務であること(米国外の会社に利益をもたらす場合)、国際商取引に必要である場合に限られることを理解する必要があります。コンプライアンスの観点から、出張者および企業の将来的なトラブルを未然に防ぐために、ESTAの誤用に伴うリスクを理解、周知徹底をする必要があります。